熊手の教え:豚を荷台に乗せて移動する方法

トレーラーで豚を移動できるよう豚に信頼してもらおう。 

 

文:ジョエル・サラティン

翻訳:伊藤 朱美 

 

それぞれの家畜に適した扱い方があります。餌や小屋に関する書物は多数ありますが、実際に家畜を移動する管理手法に関しては、ペンが執られることははるかに少ない。これが理由で、たぶん、裏庭の大きさであっても、農家は家畜を動かさないことが慣例となっている。ところが、家畜の移動は、衛生面や生態系の働きの観点からも重要で、畜産の成果を得るためにも荷台に乗せることが重要です。養豚の初心者にありがちなのは、動物の心理状態の微妙な表れを見過ごしてしまい、積み込む時にひどい経験をすることです。

 すべての種類の家畜について書いた回が当コラム欄にあっても良さそうだとはもちろん思うのだが、豚が最も作業が大変なので、この話題をブタの移動に絞って述べます。これまで飼育してきた人は誰もが豚を積み込んだ経験がある。もちろん私もそうです。初めて豚を育てたあの頃、私たちの重大な無知について遡ってみたいと思います。

 私が15歳くらいで兄が18歳だった頃、父は2頭の豚を処理するため、地元の冷凍貯蔵ロッカー付き倉庫(フランス語で言うと「アベトゥワー」、つまり食肉処理場)を予約しました。私たちが、ガーンジー牛2頭の牛乳の余り、カッテージチーズ製造の際の残った乳清、庭の雑草、穀物で育てた豚でした。

 可愛かった2頭の豚は生きのびることが出来ませんでした。豚は納屋の近くの掘り返されてぬかるんだ、いかにも豚の運動場らしい区画にいました。電気柵に囲まれた、その一画は、広すぎるくらいの広さがあり、豚たちは運動し放題でした。木製の大きな箱(うちの自家用車だった1952年の自家用フォードが入っていた輸送コンテナ)は、一時的な小屋として役立った。豚は家畜としては最高にペットに近い存在になっていました。お腹をなでられると喜び、世話をされることに満足し、ごちそうをたらふく食べました。豚は私たちを見るたび、私たちを見ると、何かおいしいものを一口くれるんじゃないか、かわいがってくれるんじゃないかと期待して、走り寄ってきたものです。

 豚の出発の朝は、しかし、別の話。まず、低床型の運搬トレーラーを電気柵のところまでバックさせました。それから、木製パレットよりやや大きなゲート4枚で豚たちを取り囲みました。3人で4枚のゲートを持って動かして行けば、豚たちをトレーラーの方へさっと移動させ、荷台に乗せられると考えていたのです。豚が跳び上がらずに済むように土を盛っておいたし、この移動式囲いを持って走って行って豚たちを囲んだまま荷台へ乗らせるなぞ、朝飯前だと思っていました。何と言っても、あいつらとは友達なんですから!

 まぁ、たしかに、ガーンジー牛の新鮮なミルクでおびき寄せることを思いついた後は4枚のゲートで作った四角の囲いで豚を包囲するのは造作もないことでした。しかし、閉じ込められたことに豚たちが気付いた途端、(うちのばあちゃんの口癖をまねて言うと)戦争が勃発。豚たちがキーキーと悲鳴を上げるわ、押してくるわで、私たち3人は曲乗り状態に。力を込めてゲートを支えて右左に押し返しながら、豚たちを進ませることのできた距離は約60 cm。それも15分かけて。私も兄もスクールバスに乗らないといけなかったし、父は町へ仕事に行かなくてはなりませんでした。

 時間が経つにつれ、私たちのイライラはつのり、豚たちもそれに応じてますます興奮していく。イライラしていただけだったのが、双方とも必死の様相を帯びてきました。それぞれ体重が130 kg近くある豚2頭に人間どもはまったくもってヘトヘトにさせられていました。豚たちが甲高い鳴き声を上げて鼻づらでゲートを押し上げる。私たちは汗びっしょり。恰幅の良いお二方がそれぞれ突撃してくるのに対抗するために私たちはひとつのゲートから別のゲートへと跳躍。こちらの陣営が猛攻を持ちこたえると敵は向きを変えて今度は反対側のゲートに激突する。当然、人間はこの珍妙なる移動式囲いを跳び越えて反対側へ先回りし、敵の新たな攻撃ターゲットを死守しなくてはなりません。

 30分前もしないうちに、もはや限界。豚たちは人間が押さえに来るより早く、囲いの一辺を押し上げ、ハチドリのような軽快さと象のような力で、牧草地の奥に逃げ、そこに立ち、頭を低くして、私たちをにらみつける豚たちが、こう言っているのが聞こえるようだった。「馬鹿な奴らだ。自分を何様だと思っている。豚を出し抜こうとしているのかね? 」

 この日は、もうあきらめた。食肉処理場への予約を取り消し、シャワーを浴びた後は、痛む傷や青あざをいたわりつつ、疲れた体に鞭を打って、その日の予定をこなしていった。その地域の古株に相談後、私たちは豚を輸送する新しい計画を思いついた。電気柵の適当な区間でワイヤーを杭からはずして地面に降ろし、その上にトレーラーを停め、荷台前にスロープを作り、荷台で豚の餌を与え始めた。豚の餌やりをすることにした。最初の日は、豚たちが勇気を出してスロープを登って餌にたどり着くまで半日かかった。食べもので釣るのは極めて有効な手段になる。実際、豚たちは食欲に抗えなかった。そんなわけで、朝に晩にと荷台での餌やりを1週間継続しました。

 父が食肉処理場に予約を入れて、次の週に豚を連れていくことに。もう、この時までに豚たちは新しい食習慣にすっかりなじんでいました。私たちがバケツを持ってやって来るのを見ると豚たちは荷台に駆け込んでごちそうを待つようになっていました。出発の朝、2頭が走って荷台に乗った後、父がしたのは扉をパタリと閉めることだけ。後は、食肉処理場へ運んで行って完了。

 ということで、豚を移動させるときの扱い方、その秘訣はこれ。「こちらが行かせたいと思うところに豚自身が行きたいと思わせれば、運搬はずっと楽になる」

こう言うとばかばかしいほど単純であるように聞こえるでしょうが、畜産農家がよくやってしまうのは、人間が行かせたいところへ豚を行かせようとすること。どうしたら移動の旅が豚にとって心そそるものとなるかを考慮に入れなくてはいけません。

 豚をやる気にさせるには食べものを使うのが一番簡単で手っ取り早い。そして、空腹ほど、豚をおいしいお楽しみに向かわせる促進力となるものはありません。もし、豚の運搬を予定しているのなら、豚が餌を食べ尽くした後、補充しないようにする。あるいは、毎日定期的に与えている場合は丸一日与えないでおく。24時間絶食したからといって人にとってと同様、豚にとって害になることはないです。それどころか、豚の誘導に驚くほど効果的。絶食をちょっと取り入れるだけで運搬がすばらしく効率的に行えるようになります。

 次に豚に関して覚えておいてほしいのは、極端に重心と目線が低いこと。この特徴を理解してもらうために公開プレゼンでよくやるのですが、私は四つん這いになって部屋の中を這い回りながら、目に入るものを実況アナウンス。立っている人に遭遇したら、その人の脚がどうなっているのかを語り、並んでいるロードコーンに似てなくもない、2本の脚の間を通り抜けるのがどんなに簡単そうに見えるかを語ります。

 130kgの豚が90kgの人間を突き倒す理由はここにあります。「マザーアースニューズ!」と言う間もなく尻餅をつく。何回そんなことがあったか認めたくないほど何度も私は豚のせいで笑い者になった。閉じ込められた豚が人の脚の間を通り抜けようとするとき、豚がどのようにてこの作用を使うか、どんなに力が強いか、それでいて機敏か、たいていの人間の想像を超えています。

 身体的特徴の違いであり物理作用の使い方の違いである、このような人と豚のギャップを埋めるためにうちでは豚用誘導ボード (sort board) を活用しています。合板を適当なサイズに切って自作することもできるし、既製品を農機具メーカーから購入することも可能。重宝すること間違いなし。サイズは3つあり、縦は約30インチ (76 cm) で共通、横が36インチ (91 cm)、48インチ (121 cm) 、60インチ (152 cm) の3種類。上部に2つの握り穴があります [2枚目の写真参照]。このボードは豚の視界を遮り、手に持って移動させる壁として使えます。「動かせない壁に立ち塞がれた」と豚に思わせる効果があるので、目線が低い豚を不利な立場に逆転させることができるのです。

 壁が移動することに豚は気づきません。豚が意識するのは壁で視界が遮られたということだけ。誘導ボードが数枚、手元になかったら、うちでは豚に手出しをしません。

 覚えておくべき3つ目は、豚が地面に沿って歩きたがるという習性です。傾斜台を登るというのは体と地面の間に空間ができるのを意識することになり、その感覚を豚は嫌います。昨今は低床トレーラーはとても一般的で、ほとんどの農場で高架式傾斜台を使用しトラックに積み込むことはありません。もし、使うならば、必ず、丈夫で、傾斜面に隙間がないものにすること。最も実用的な選択肢は、豚が高いところに登らされたと決して気付かせないように、土を固めおいた傾斜面を備えた傾斜台を使うことです。豚をトレーラーの荷台に跳び上がらせる際には、傾斜面と地面の間の明るくてすかすかに見える空間を干し草か藁のベイルで塞ぐと豚は安心して荷台まで登っていきます。飼料か、何か好物を少しばかり荷台に撒いておくのも役に立ちます。トレーラーまで道筋を描くように餌を撒けば、そそられるまま豚は立ち止まることなく荷台に乗ることになります。

 最後に、豚は賢い。豚と信頼関係を築くのはほかのどんな動物より難しいのです。こちらが何を企んでいるかを用心深く感じ取るし、飼育者が自分たちのためを思ってくれていると根拠なく思い込むようなことはしません。電気柵のゲートを開けると、牛はすぐに寄ってくるようになりますが、豚にそういう習性はありません。

 したがって、うちでは電気柵の囲いの出入り口には、必ず、物理柵を設置するようにしています。ゲートとして物理柵を常用していれば、豚を別の運動場に移動させる際に豚は飼育者を信頼している必要はないのです。豚たちはよく物理柵をひっかいたり、柵に体をこすりつけたりして慣れ親しんでいます。(不測の事態で簡単にショートすることのないよう、うちでは電気を絶縁する木製の物理柵をゲートにしています。)そのため、物理柵のゲートを開けると豚たちは躊躇なく通ります。

 豚の体重が 90kg くらいにまで育つ頃には飼育者を信用し始め、電気柵のゲートを通るようになります。豚は決して牛と同じように簡単に通過することはありませんが、数ヶ月間一緒にいれば飼育者を信頼するようになるので、囲いのゲートとして物理柵を使わなくても済むようになります。

 このような豚の運搬原則を念頭に置くことで悪夢を減らし、良い思い出を増やすことができます。面白みのない体験となることが、この作業においては望ましいのです。

 

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Loading and Moving Pigs

By Joel Salatin

April/May 2018