栽培品種ごとの課題

マザーアースニューズ 自然 ガーデニング 環境

在来植物の栽培品種をめぐる論争が長引く。それはこうした品種の生態系における機能と、環境への影響懸念から来ている。

 

文:トム・オーダー (Tom Oder

翻訳:浅野 綾子

 

 ムラサキバレンギク(学名 Echinacea purpurea)の「ピンク・ダブル・デライト(Pink Double Delight)」1970 年代に在来植物のムーブメントがはじまった時、その目指した目標のひとつは、生態学的に持続可能な方法で造園やガーデニングをすることについて、一般市民を啓発することだった。半世紀たった今、誰も予測しなかったほどの盛り上がりを見せている。

 在来植物[特定の地域や生態系の中で、数百から数千年かけて自然界における均衡の一部となった植物。アメリカにおいては、ヨーロッパ人の入植前に発見された植物のみを指す]ファンの数は増えていき、地域の種苗園で購入できる在来植物相にイノベーションを起こすことが求められました。その対応として、園芸産業では在来植物を改良した品種の供給数を増やしました。改良品種は、花粉媒介者の誘引性、美的価値、耐病性、育成面の安定など、望ましい特性が向上するように設計されました。在来植物コミュニティと観賞用植物業界の双方で、アメリカ内外の種苗生産者と育種家が、自生する在来植物や、研究室でつくりだされた交配種から植物を選び、新たな品種に改良しました。残念ながら、自生する在来植物から選びだされた植物を改良したものと、交配種を改良したものがひとまとめにされ、同じラベルを貼られることがよくありました。「在来栽培品種(native cultivar)」または、シンプルに「栽培品種(cultivar)」  というラベルです。それに続いて混乱が生まれ、生態学的価値についての論争が爆発的に起こりました。このテーマの論争は沸騰し、植物界における最も熱い論争の一つへと至りました。栽培品種は、由来する植物種と同じように野生生物に資するのでしょうか。それとも、環境上の価値など何もない、ただのお飾りにすぎないのでしょうか。それどころか、在来植物の栽培品種は環境上の害を生じさせることもあるのでしょうか。

 園芸界の答えは分かれます。というのも、分類学、植物学、基礎的な用語などによって意見が異なるからです。幸いなことに、家庭園芸家は栽培品種をめぐる問いに答えを見つけるのに必要とされる、深い知識を得る必要はありません。自分の庭の目的を決めれば良いだけです。

 

家庭園芸をする人のために

 鑑賞用植物の最先端の品種改良品を育てたいなら、おそらく交配種の栽培品種に心惹かれるでしょう。交配種は、育種家が 2 つ以上の種を交配(一部のケースでは戻し交配[両親(P1 P2)の交配から得られた F1 P1 または P2 を交配すること])し、雄性 不稔で繁殖させたものです。交配種の花、特に重弁花は種ができないことがありますが、これは交配種一般にいえることではありません。たとえばエキナセアやイワブクロの交配種の多くには、蜜や花粉、種ができます。もっとも、交配種については、他に知っておくべきことがあります。研究によれば、葉が目立つように色を紫や赤に変えるアントシアニンは植物に苦みを加え、虫が食うのを妨げることがわかっています。

 野生生物やその食物網を支えることが目的なら、選抜された栽培品種がおすすめです。この栽培品種は、自生する在来植物の個体群から選抜されたもので、うどん粉病への耐性や、その品種が属する典型的な種よりもサイズが小さいなど、園芸向けの性質があるとの理由で選び出されたものです。この選抜された栽培品種の大多数は、植物の身体の一部から栄養繁殖[植物体の一部から植物体を再生させる増殖方法]され、ほどんとの栽培品種が元の自生する在来植物の種が持つ生態学的な利点を維持しています。これらの栽培品種は遺伝的には親株のコピーなので、復元生態学の実践者が植物群落を再生するのに必要とする、遺伝的多様性を生み出すことは決してできません。とはいえ、そのことをもってこうした栽培品種の都会や郊外の園芸における価値が目減りすることはありません。

 選抜された栽培品種の例として、クサキキョウチクトウ(学名 Phlox paniculata) の「ジーナ(Jeana)」 があります。この品種はジーナ・プレヴィット(Jeana Prewitt)によって、テネシー州ナッシュビルの自宅付近を流れるハーベス川沿いに自生しているのを発見されました。ジーナの名にちなんで名づけられ、深緑の葉がうどん粉病に耐性があるのは、クサキキョウチクトウ属には珍しいという理由で繁殖用に選抜されました。さらに、花には甘い香りがあります。また、花のサイズはこの種一般のものよりも小さく、真夏から秋の早い時期にかけて花を開かせ、明るいラベンダーピンクの花弁がさまざまに陰をつくって、花粉媒介者を強力に誘引します。

 「チョウやハチと、長く独特の関係を築いてきた特定の植物があります」というのはスティーブ・カストラーニ(Steve Castorani)。ペンシルベニア州ランデンバーグにある、カストラーニの卸売店ノース・クリーク・ナースリーズ(North Creek  Nurseries)は、「ジーナ」を一般に普及させました。「これを庭に植えて花を咲かせれば、トラフアゲハが来ます。100 パーセント確実ですよ。ジーナといえばトラフアゲハという特別な関係があるんです」。

 「ジーナ」の生態学的な価値をさらに立証するのは、デラウェア州ホッケシンにある非営利植物園のマウント・キューバ・センター(Mt. Cuba Center)で行われたフロックス・サン試験(Phlox Sun Trials)。この試験で、ジーナは花粉媒介者を誘引する主役級の植物であると明らかにされました。この植物園では野生生物を支えるために在来植物の幅広い栽培を奨励し、自生する在来植物から選抜された栽培品種や、交配種を元にした栽培品種の園芸における価値を評価するために、圃場試験を実施しています。。。

 

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