このアドバイスは、あなたがオフグリッドの家のバックアップエネルギー用に最良なエネルギーを選ぶのに役立つ。
わずか30年ほど前には、オフグリッドで電力を自給する太陽光発電(PV)システムといえば、35ワットの太陽光発電モジュールが2枚と車のバッテリーを1、2個組み合わせたものだった。当時はまだインバーター【太陽光発電で得られた直流を家電などが使える交流(日本では100ボルト)に変換する装置】のないシステムで、実用的なインバーターが手に入るようになるのは何年も先のことだった。そんな12ボルトのシステムでも、低電圧で使える照明を数個は灯すことができたし、カーステレオを鳴らしたり、初期のRV車向けの12V対応の製品を使うことができた。それだけでも、この分野の先駆者達にとっては灯油ランプやエンジン式発電機に代わる素晴らしい天からの贈り物だった。
初期の太陽光発電システムで使われたバッテリーは、家庭での利用に付きものの深放電(deep discharges)に対応した設計がされていなかったため、わずか1、2年で蓄電できなくなることが少なくなかった。そのため、当初は他の用途のディープサイクルバッテリー【繰り返しの充電・放電に強く、蓄電された電気を極限近くまで使い切ることを前提に設計されたバッテリー】を農的暮らしのための電力自給システム用として流用していた。なかでもよく用いられたのは、もともとゴルフカートやスーパーのフロアスクラバー【自動床洗浄機】やトロッコ向けに開発されたバッテリーだった。メーカーから直接、産業用の本格的なバッテリーを購入できるのは、ほんの一握りの金持ちに限られていた。
再生可能エネルギーシステムは、その家庭で一日に消費する以上のエネルギーを、太陽光や風力や水力発電や、その他の発電機による発電量の合計で賄えるように設計する必要がある。バッテリー群の役割は、発電と発電の間【の発電できない期間】に必要となるエネルギーを蓄えておくことに尽きる。綿密に計画され、その通りに運用されれば、バッテリーに蓄電された電力で家庭が必要とするすべてを賄える。もっとも「すべて」といっても一般的な家庭が消費する電力量には遠く及ばないけれど。
ささやかで限りある自家製の電気でやりくりする暮らしを始めるにあたり、次の3つの基本原則を忠実に守ること。電気向きでないものは他の種類のエネルギーに変えること。効率化によって無駄を減らすこと。そして、使える電気の量に合わせた使い方をすること。
電気を賢く使おう
神様は様々な種類のエネルギーを等しく創造されたわけではない。電気は、とりわけ高品質なエネルギー形態で、照明や電子機器やモーターに加えて、その他の電気ならではの特殊用途に使われるべきものだ。それぞれの用途に応じて、最も効率の良いエネルギーの種類を選ぶことで、快適さと便利さを追求しながら総消費電力を大幅に削減することができる。従来の送電網を使っている家庭に共通する5つの用途 ― 暖房、給湯、調理、衣類乾燥、それに冷房 ― に対して、オフグリッドの農的暮らしでは電気の出番はない。これらはいずれも、エネルギーの大飯食らいで、供給が限られる自家製の電気で賄うには無理がある。ほかのエネルギー形態の方がよほど適している。
当初は、太陽光発電モジュールは今日よりずっと高価で、それに比べればバッテリーは安かった。当時は1週間分の蓄電容量をもつシステムが多かったが、少ない枚数の太陽光パネルと大容量のバッテリー群で構成されていたため、慢性的に満充電となることがなかった。一方で今日のシステムの多くは、バックアップ発電機を備えていれば、2、3日程度を蓄電できる容量しか必要としない。予算が許す限り、バッテリー容量を増やす代わりにパネル枚数を増やす方がよい。
一般にバッテリーベースのシステムは、12ボルト、24ボルトまたは48ボルトの規格で接続される。電力自給システムといえば12ボルトと思い込んでいる人が少なくない。それしか見たことがないからだが、信頼性の高いインバーターが手に入るようになった今となっては、12ボルトシステムは過去の遺物だ。一般自動車やRV車用の照明やテレビ、怪しいブレンダーなどすべてが12ボルトで、それが業界標準だったが、1987年以降、優れたインバーターが手に入るようになり、以来、インバーターベースの交流(AC)の機器が使えるシステムが急速に普及した。交流システムと比較して、12ボルトの優位性はほとんどなく、大電流と太い導線が煩わしいだけで、小さな小屋を除いて12ボルトにこだわる必要はもうない。
液式鉛蓄電池
オフグリッドの住居でもっとも使われているバッテリーは液式の鉛畜電池だ。液式鉛蓄電池には、3種類のタイプがあり、それぞれに適した用途がある:ゴルフカート用のバッテリーは何百万台の規模で大量生産されていて、小規模システム向け低コストなバッテリーとして最適だ。7年以上使えることはまれで、大体が4、5年といったところだ。その代り、慢性的に充電が不足してもバランス不良などの雑な扱いをしても大丈夫。システムによっては、頻繁にバッテリー一式のリサイクルや交換を行った方が安上がり、ということもある。とはいえ、ゴルフカートバッテリーは小規模システムに限定されたものだと考えてもらいたい。
次によく使われる液式鉛蓄電池はL16と呼ばれる。もともとスーパーマーケットのフロアスクラバー向けに設計されたもので、夜を通して稼働し、次の日にコンセントに繋いで充電される。ゴルフカートバッテリーと同様に、L16バッテリーも扱いやすいサイズと深放電性能、それに比較的低価格な点が評価され、好んで使われてきた。その後、年を経て、サイズが規格化され、メーカーも太陽光発電向けに製造・販売するようになった。L16バッテリーはゴルフカートバッテリーよりアンペア・アワー【Ah】当たりの価格は高く、寿命は大して長いわけでない。せいぜい5、6年といったところだ。小中規模システムに適したサイズで、重さは54kgほどで2人で運べる。
最後の液式鉛蓄電池は、本格的な産業用バッテリーだ。このタイプは他の産業からの流用ではないため、サイズは規格化されていない。その代り、各セルのサイズと容量は使われている素材のプレートの枚数で決まる。産業用バッテリーは初期投資こそ大きいが、サイクル寿命は長く、15年から20年は十分に稼働する。長期的には最もお値打ち品と言える。
オフグリッドの暮らしをこれから始める人向けには、数台のL16(またはゴルフカートバッテリーでも良い)がよい練習台になる。なかにはバッテリーのメンテナンスを苦に感じない人もいるだろう。産業用セルをダメにして苦い経験をすることもあるかもしれない。まずは少ない投資で安価なシステムから始めて、数年かけて自分にあったオフグリッドのライフスタイルを見つけていくとよい。
オフグリッドバッテリーの未来
バッテリーの選択の幅は遅々として増えない。というのも、バッテリー固有の難しさがあるためだ。ディープサイクルバッテリーが15年から20年もつとすれば、実践から何かを学ぶのに何十年もかかってしまう。オフグリッドを導入している人で、バッテリー寿命が尽きるまでの経験を元に、バッテリー選びや設置、メンテナンスに生かしている人はほとんどいない。我々の多くは、長期間に渡るデータが得られないとなれば、これまでと同じものを導入する傾向がある。敢えて新しいチャレンジや、より値の張る方法を試そうとはしないものだ。
バッテリー開発の進歩には目を見張るものがあるが、その多くがバッテリーの性能向上と重量当たりのエネルギー密度の増加に貢献している。その成果が、軽量、高密度な電気自動車用バッテリーやポータブルバッテリーなどだ。農的暮らしのための電力自給システムでは重量はさほど問題にならない。より重要なのは、1ドル当たりのエネルギー密度だ。この点で、ほとんどの人にとって、従来の液式鉛蓄電池が依然として最適な選択だ。
密閉式バッテリー
オフグリッド用バッテリーの分野で大きな変化が起こりつつある。従来の液式鉛蓄電池から密閉式の吸着ガラス型(AGM)【バッテリーの電解液(希硫酸)が、スポンジ状のグラスマットに吸収されている】バッテリーに移行してきている。今のところはまだ、この移行は産業界においても表立って進行しているようには見えない。密閉式バッテリーはオフグリッドに求められる性能と深放電の需要に十分応えられるサイクル寿命を持っている。これは比較的新しい変化のため、長年の運用実績はなく、結論を導き性能を予測できるまでには至っていない。熟練したオフグリッド施工者は高品質のメンテナンスフリーのAGMバッテリーなら、うまく使えば8年以上休みなく稼働するだろうと予想している。
密閉式バッテリーは液式より断然優れた点がある。正しく充電さえしておけばメンテナンスが不要な点だ。電解液がジェル状または吸収されているので、通常の充電中にガスが発生することはない。そのため、屋外への換気を制御する装置が付いた密閉された入れ物を必要としない。また、定期的に満充電している限り、少ないパネル枚数による低い充電率でやりくりすることができる。また、液漏れしないのでバッテリーを置いているところを汚すこともなく、端子の腐食もない。AGMバッテリーは有害物質を含んでいないので、追加のコストなく通常の陸運で運ぶことができる。さらに、セルに上から水を補充する必要がないので、好きな向きに積み上げていくことができる。積み上げることで液式のバッテリーより少ない設置面積で済む。
密閉式バッテリーにも欠点がないわけではない。価格はかなり割高で、過充電でダメージを受けやすい。それでも、バッテリーのメンテナンスをしたくない人には最適だろう。仮に毎年に数回プロの保守サービスを受けることを考えると十分元が取れる。この層にはオフグリッド生活を新たに始めるビギナーが多く含まれていると考えられるが、彼らはオフグリッドの恩恵は受けたいが、先輩達がDIYに没頭したほどにはのめり込みたくないと考えている。彼らはプロが設計し施工したシステムの方を好み(また、それを購入するだけの経済的な余裕もある)、それ故の制約は受け入れられるが、手間のかかるメンテナンス作業までは自分でやりたいと思わない。密閉式バッテリーは別荘などあまり頻繁に手入れできない場合や、週末を過ごすだけの小屋で必要な電力を、数枚の太陽光パネルと大容量のバッテリー群で蓄電する場合にも向いている。
農的暮らしに使える現時点でのバッテリー技術としては、液式であれ密閉式であれ、確かな実績のある鉛蓄電池をお勧めする。ほとんどの農的暮らしの実践者に対して、私のアドバイスは、今はまだ最新の技術に飛びつく時ではないということだ。飛躍的な進歩が今まさに起こっている最中で、5年後、10年後にはバッテリーの選び方はすっかり様変わりしているだろう。農的暮らしをする人の中には、リチウムイオンや他の最新バッテリー技術に乗り換える前に、一度バッテリー一式を更新したいと考えている人もいるだろう。より優れた技術は確実にやってくる。最近の太陽光発電モジュール価格の下落と同様に、バッテリーの価格も下がるのは間違いない。だが今はまだその時ではない。
たのしい暮らしをつくる
マザーアースニューズ
The Best Batteries for Your Off-Grid Battery Bank
By Allan Sindelar
December 2016/January 2017
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