持続可能な家畜の飼育者を無視し(もっとよろしくない場合、工場式農場と一緒くたにして)、反食肉活動家は、家畜が私たちの体、農場、土地にもたらす建設的な恩恵を見落としている。
グラスフェッドの牛肉や、平飼いの鶏などの生産者を無視すること(もしくはもっと酷く、工場式農場とこうした牛肉や生産者を一緒くたにしてしまうこと)によって、肉食反対の運動家は持続可能な放牧業が私たちの身体や農場、大地にもたらす利益を見落としてしまう。
文:Joel Salatin
翻訳:浅野綾子
持続可能な放牧業は、丈夫で少食なスコットランド種のベルテッド・ギャロウェイのような在来種の家畜動物を保存するためにも活用できる。
そこにないものを評価することはそりゃあ難しいんだ、みんな。変だと思うだろうが、この論理が家畜の消費と生産についての多くの査定を支えている。ポリフェイス (Polyface) や同じようなその他の持続可能な農業活動について研究する代わりに、学術的研究論文は最悪中の最悪である、もっとも機能していない、環境保護に反する、虐待的で、家畜動物を栄養不足に追い込み生命を奪うと考えられる工場式農場を対象として査定しているのだ。畜産は悪いと結論付けることも無理はない!持続可能な放牧業と工業型畜産のあまりにも大きな違いがわからずに、このとぼけたデータ全部を鵜呑みにしてしまう人が多すぎる。このことだけでも私の頭がおかしくなるのに十分だ。
研究論文が、2、3のグラスフェッドの家畜動物生産者を説明する時でさえ、管理されていない牧草地で飼われる家畜動物をただしきりに上げるだけのことが多い。こんな教育では、消費者やメディアが今日のアメリカの家畜動物生産者を悪魔のように扱う、加速する敵対的な肉食反対の雰囲気も無理からぬことだ。
この短絡的な筋書きは、大規模と小規模、オーガニックと殺虫剤の散布、グラスフェッドと肥育場、これらを全部一緒くたにしている。もちろん、多くの動物愛護者は生き物を奴隷にしていること、それから暴力的に殺すことについて私たちを非難する。初めにテンプル・グランディン (Temple Grandin) 【アメリカの動物学者。非虐待的な家畜動物設備の設計者】と、できる限り苦痛を与えない屠蓄についての理論を読むことなしに。とある行き過ぎた環境保全主義の圧力は、気候変動、水、土、酸素の枯渇現象を、もうおわかりだろう、国内の家畜のせいにする。まず、土壌に炭素を蓄積する放牧方法であるカーボン・ランチング (carbon ranching) や放牧によって生態系が多様化されるという利益を理解することなしに。
非難は日を追って強くなってきている。正直に言って、私は自分がサンドバッグになっているように感じる。こうした非難の1つ1つに関わりあうことはしないつもりだ。というのも、私がし得るよりも遥かに上手く、多くのよりふさわしい専門家が対応してきているからだ。しかし、正しいやり方で持続可能な農業に従事している仲間達を無視することのそもそもの過ちについて話しておこう。
工場式農場ではない、持続可能な放牧場
肉食反対運動家の主張は、この国の家畜動物生産の大部分が、動物にとって残酷であり、環境を害し、畜産業で額に汗して働く仲間達にとって不健康であるという点において、断然正しい。問題は、こうした運動家たちがこの国で増えている根本的に異なった価値観を持つ生産者を無視していることだ。
最近私は、Cowspiracy(カウスピレシー)という映画を見たが、テレビに向かって「よっしゃ!教えてやってくれよ、兄弟!」と叫んでいた。しかし、このドキュメンタリーも、(私が猛烈に反対している)集中家畜飼養施設 (CAFO) をよく思っていないものの、他と全く変わらず私たち畜産業者を全て十把ひとからげにしてしまうという罪を犯してしまっていた。
鶏を飼育しているからと言って、自動的にモンスター企業のタイソン【アメリカの食肉加工大手企業のタイソン・フーズ】になるわけではない。放牧された豚はスミスフィールド【世界最大の豚肉生産・食肉処理のアメリカ企業であるスミスフィールド・フーズ】の豚ではない。屠蓄されるまで牧草で育ったグラスフェッド・フィニッシュの牛は飼育場の牛とは違う。驚くべきことに、一部の環境保護主義者は、グラスフェッドの家畜動物が集中家畜飼養施設 (CAFO) にいる家畜動物よりも大地に悪影響だと言うのである。実際に家畜動物に牧草を食べさせている私たちのような者や、知り合いにそのような牧場経営者がいる人は、集中家畜飼養施設 (CAFO) 産業の肉が牧草地で跳ね回った家畜動物の肉よりも地球にとって良いことはあり得ないことを知っている。
もう一度言おう。対象に含まれていないものを論ずることはできない。チャイナ・スタディの執筆者らも、国連の調査報告書である「Livestock’s Long Shadow(家畜の長い影)」の作成準備をした専門家たちも、私たちの農場や同じような農場に誰一人として来なかった。彼らは持続可能な放牧業のやり方を考えに入れなかったのだ。実際、ホリステッィク・マネジメント (holistic management) の創始者であり指導者であるアラン・セイボリー (Allan Savory) が、やっとCowspiracyの制作者らに話を聞いてもらう機会を得た時、制作者らはこれ以上無い程に無反応だったのだ。
研究論文の対象になっていないことについてしつこく話してきた。じゃあ、対象になっていないものとは何なのか、話していこう。アラン・セイボリーは、土作りの人であり、異常乾燥地域で長く廃れた泉の再生者であり、二酸化炭素を大気中に放出せず地中などに固定する二酸化炭素隔離放牧業者であり、バイオマス生産の支持者だ。はっきり言っておこう。それは多くの家畜動物生産者が世界で、アラン・セイボリーと同様の成功を手にし、利益を手にしてきているのだ。
歴史に見る動物の群れに着目する
私の放牧業のやり方を理解するためには、500年前北アメリカに住んでいた膨大な数の動物を思い出す必要がある。この動物の群れが、土を作り、生物資源を生み出し、水分を絶やさないという並外れた生態系を作り上げた。この生態系は、交配種や化学肥料、殺虫剤、もしくはトラクターの助けを借りることなく現れたのだ。
北アメリカの大草原地帯の昔話に、長さ80キロ幅30キロほどに及ぶバイソンの群れの話がある。群れはあまりに密集しながら駆け抜けたため、観察者は一頭と一頭の間の草原を見ることができなかった。著名な自然主義者であり鳥類学者であるジョン・ジェームズ・オーデュボン (John James Audubon) は、3日間も日光を遮る!伝書鳩と思われる鳥の群れを目撃していた。
ヨーロッパによる植民化の前、何百万というビーバーが約80万平方キロメートルに及ぶ北アメリカ湿地帯を作った。異常に乾燥した南西部においてさえも、ビーバーが作った池の数は天文学的だった。このビーバーの池による水資源保護や浸食破壊保護がどれ程のものだったか想像してみよう!
急速な土壌の劣化、砂漠化、気候変動は新しい普通のことになる必要はない。昔の動物たちや、自分たちの生存をこうした動物に依存していたネイティブ・アメリカンによって示された法則のようなものに、私たちは倣うことができる。私たちは、移動性の動物や鳥の群れが自然に見せる、明確な行動パターンを覚えておく必要がある。捕食動物に対してや、狩り、天候、火事に応じて見せる、移動や、餌となる動物や敵の取り囲み、草を食む際の明確な行動パターンだ。
家畜動物生産者や肉を食べる消費者を非難する科学者たちは、私たちの高度に機能的なパーマカルチャー農場をわざわざ手間をかけて研究するだろうか。答えはノーだ。醜い真実だが、循環的な自然を模倣した農場は、多くの有資格の科学者たちの世界には単に存在していない。私たちは統計学的に重要ではないのだ。
持続可能な農業に向けた流れ
昨年の夏、スミソニアン協会【科学知識の普及向上を図るため1846年アメリカのワシントンD.C.に設立された学術協会】の科学者たちが、ポリフェイス・ファームを訪れた。土や蜂、鳥、また、植物の多様性を研究して私たちの家畜動物生産システムが牧草地にどのように影響するかを数値化するためだった。私たちはグラフにおさまりきらないんだ!バージニア州に生存していると知られるあらゆる種類のマルハナバチは、まさにここ私たちの農場では健在だ。牛や鶏、豚、七面鳥、ウサギ、羊、アヒル、そしてかなり騒々しい人間何人かが共に居合わせる農場だ。
彼らが私たちの農場の土に何を発見したと思う?炭素だ。アメリカの大部分の土に含まれる炭素のレベルと比べて、平均して8倍の炭素が私たちの農場の土には含まれている。このずば抜けた数値の理由は何だろう。私たちの農場では、電気柵を使って放し飼いの家畜動物を集約的に管理している。また、自然のあり方がまさにそうあるように、地面をつつき、餌をついばみ、卵を産んでいる移動式の鶏舎複数が続いて置かれる。更には、私たちはポリフェイスに12個の池を堀り、約10キロの水路を設置しているんだ。ビーバーよ、君達よりすごいぜ!
親愛なる読者のみんな、わかるだろう。名門農業大学、工業食品・農場団体の世界では、私たちの農場や同じような取り組みをしているその他のわずかな農場は悲しいかな認識されていないんだ。私たちは彼らの主催するディナーに招かれることはない。誇り高き大学の農業図書館のうちどこか 1つだけでもいいから、その棚を飾る雑誌に記事を書く代わりに、私たちはマザーアースニューズのような活発な大衆向け雑誌に記事を書いている。私たちは異端者であることに誇りを持っている。完全にその世界から外れ、注意を向けられず、更には名門大学の主流学派から興味を持たれることすらない。名門大学における主流学派、そこには研究費用がある。力と信望と利益も見出すことができる場所だ。
多くの読者は自分にスイッチが入った日を思い出すことができるだろう。人生に灯りがともった日のことだ。もしかしたらそれは自分が、あるいは友達が病気になった日かもしれない。もしかしたら、商品名まで口にしづらいその手の商品について調べ始めた日かもしれない。もしくは、ただこの地球の状況に十分思慮をめぐらせた日かもしれない。どんな理由にせよ、あなたは何かをしようと決めたんだ!想像してみよう。もし、もっと多くの農場や市民社会に生きる仲間達が、この戦いに加わった時の騒ぎを。おやまあ、肉食反対ビジネスの人々が、動揺が止まらずに仕事を請いに来るだろう。医者には閑古鳥が鳴くだろう。化学肥料に使われる石油は、地下に眠ったままかもしれない。もしかしたら、石油を巡って争う必要がなくなるかもしれない。
マザーアースニューズや、その他の建設的なテーマをかかげるメディアの助けを借りて、私たちは有害な物事を中心に回る社会から、正しいことに関心が集まる社会へと移行している。私の周りでは新たな選択肢が受け入れられつつあることを感じる。放し飼いの家畜動物や堆肥栽培の野菜が栄養上優れていることを研究が示し続ければ、世の中の主流派も私たちを無視することは難しくなる。個々の健康増進に向けた流れはどうかって?まさに継続的な加速に向かっているところだ。
私たち一人ひとりがこの勢いに力と確かさを加えるのだ。仲間たちが、健全な土、清らかな水、清浄な空気、栄養価の高さ、心身の癒し、その他多くの運動に動いている。私たちがそうした現場で使う言葉を変え、意識を変えていっている。やり続けよう。そうすれば、私たちの子供たち、彼らの子供たちが希望に囲まれて生きることができる。それこそはまさに戦うにふさわしい目的なんだ。
ジョエル・サラティンと彼の家族は、バージニア州スウープにあるポリフェイス・ファームで、豚、鶏や七面鳥などの鳥類、牧草地と土を管理している。サラティンは、「Folks, This Ain't normal(皆、これは普通じゃないぜ)」の著者。ローカルフードや持続可能な農業に関するその他多数の著著がある。
たのしい暮らしをつくる
マザーアースニューズ
What’s Right with Sustainable Ranching
By Joel Salatin
June/July 2016
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