市場向け野菜栽培:1.5エーカーで生活する方法

経験豊富な農家から学べば、あなたも、これぐらいあればと思っていたよりも小さな面積でやりがいのある市場向け野菜栽培を成功させることができる。

 

「レ・ジャルダン・ド・ラ・グレリネッテ (Les Jardins de la Grelinette) 」は、ケベックのサン・アルマン (Saint-Armand) にある、注文が引きも切らない著者の市場向け野菜栽培農園。

 多くの人は、小規模野菜農家は大規模産業農家に経済的に太刀打ちできないと思っている。しかし、10年以上も、私と妻は約6,000平米の集約的農業で4人の家族を支えてきた。ここに、成功する市場向け野菜栽培を始めるためのロードマップとして、私たちの経験をあなたに提供しよう。

 私たちは、農家としてのキャリアをウーフ(世界中の有機農園で働くことのできるネットワークを使ったボランティア)として始めた。その後、雇われて農場管理者として働いた。それからしばらく海外で学び、自分たちの農業を始めるためにケベックに戻ってきた。暮らし向きは質素に努め(ティピーが住まいだった!)、800平米の小さな規模で作物を作り始めた。 数年の後、地域に根ざして農園を広げたいと強く思うようになった。しかし、そのためには利益を出さなくてはならなくなった。小さな土地を買い、慎ましい住まいを建て、家庭を持ちビジネスを展開するため、利益を上げることとは矛盾するように聞こえるかもしれない決断をした。小さくあり続けるということだ。

 お金のかからない手道具、軽量の電動用具を使い続けたいと思った。思い余って、私たちの農園の名前をラ・グレリネッテ(「ブロードフォーク」:broadfork 【農作業具の一つ。竹馬状に並べた2本の棒が下部で横棒によりつながれ、横棒の先からフォーク状に数本の金属が出ている道具。足で横棒の上にのりフォークの先を地面につきさし、横棒から後ろに降りる反動でフォークの先を地上面に出す、この繰り返しにより耕すもの】) と名づけたくらいだ。ブロードフォークは、有機栽培での効率的な人力作業を象徴する道具だ。私たちが固く信じていることは、知恵を絞った栽培技術で生産量を上げることは可能だということ。むしろその方が好ましいとさえ思っている。私たちのモットーは、「規模を大きくするよりも、もっとたくさん育てよう」だ。

市場向け野菜栽培のための生物学的栽培強化アプローチ

手始めに、活力にあふれた豊かな土を作るため、多量の有機資材を購入した。定期的に堆肥を入れ、一方で耕起は土の表面だけにとどめた。このやり方なら、土壌構造を可能な限り壊さないようにすることができる。土質を上げることによって、作物を近い株間で植えることができ、結果として生産高を上げ、雑草の繁茂も軽減させることができるようになった。

 さらには、可能な限り期間をおかずに作物を栽培することで、栽培スペースが最大限になるようにした。輪作計画を作るとき、まず始めにそれぞれの作物がどれ位長く畑にいることになるか正確に知ることが必要だった。その後で栽培計画を立てた。そうすることによって収穫が終わった作物を新しい苗や種に入れ替えることが可能な限り早くできるようになった。輪作プランがあったことで、常設の植床を使った多彩な収穫を生み出すことに成功したのだ。

 

手押し耕運機を使って生産量を最大限に

大型の4輪トラクターの維持管理費の支出を避けたかったので、取り外し可能の多様な付属品のついた、小さいけれども強力な手押し耕運機を使っている。詳しくは、「選べる手押し耕運機オンライン (two-wheeled tractor options online) 」を参照されたい。

 土質を最良に保つことが私たちの最重要課題だ。だから、回転式のハロー【農地の表面を均したり、土を砕いたりする機械】( ここで見ることができる)を使い続けている。これなら心土の活力を保ちながら、植え付け準備のために表土をやわらかくすることができる。また、「ティルサー (tilther) 」も使っている。土壌改良剤を土にすき込むときに大いに役立つ。電動ドリルが動力の優れものだ(ジョニー種苗店:Johnny's Selected Seeds で買うことができる)。被覆資材や手押し耕運機の付属品も含めて、全ての道具は私たちの畑の植床で効率よく使える大きさだ。常設の植床は、全て同じサイズのもの。植床のサイズは、幅75cm、長さ30m。各植床間は50cmだ。

 草刈はとてつもなく時間がかかる。雑草の勢いを抑え、収穫を終えた苗の残骸を覆い、手間を省いて時間を有効に使うため、土は黒マルチで覆っている。UV耐久性の黒いポリエチレン防水マルチは、厄介な草刈の負担を減らすのに特に役立つ。仕組みは簡単だ。雑草はマルチの中の温かく湿り気のある状態の中で発芽するものの、光がないため死んでしまう。この草取り方法を、「掩蔽 (occultation) 【えんぺい:覆い隠すという意味】」という。本当に大助かりだ。この方法のすごいところは、比較的お金がかからないということだ。特に、慣行農業で使われる大型機械や高価な化学品と比べると分かるだろう。

 

市場向け野菜栽培を成功させるために直売する

ファーマーズマーケットや、地域支援型農業 (CSA) プログラムを通じて直売することで、今日の経済システムの中でも、市場向け野菜栽培が経済的に成り立つ仕事となる。拡大する直売手法は、卸業者や小売業者によって従来吸い上げられていた多額の利益を生産者の手に取り戻すことを可能にしている。たとえば、ほとんどの食料雑貨店では売値の35~50パーセントを取り分としている。商品の運搬や取扱先となる卸業者は、さらに15~25パーセントを取る。これが意味することは、サラダ菜が2ドルで売られても、生産者の手には75セントしか残らないということだ。この損失は大きい!一方、もし農家が時間と労力を市場調査や販売に割くことをいとわなければ、売上利益の全てを手にできるのだ。

 レ・ジャルダン・ド・ラ・グレリネッテでは、CSAモデルを推奨する。なぜなら、売上を保証し、生産プランが立てやすくなるからだ(後述の「CSAプログラムの利点」をご参照)。昨年、私たちは、生産高のうち46パーセントをCSAプログラムの140人のメンバーに売り、44パーセントは2つのファーマーズマーケットで売り上げた。残る10パーセントはベビーリーフミックスで、数軒の地元レストランと近所の食料雑貨店が売り先だった。おおよそ250世帯に野菜を売ったことになる。忘れないでほしいのは、私たちがケベックに住んでいることだ。私たちは栽培期拡大技術を導入しているが、アメリカのほとんどの地域よりも栽培期が短い。もし、あなたがケベックよりも温暖な地域に住んでいるのなら、もっと売ることができるはずだ。

 CSAモデルを採用するにせよ、ファーマーズマーケットでの販売や、これらの手法を併用するにせよ、直売は顧客ロイヤルティ【企業・店や、その商品・サービスといったブランドに対する顧客の信頼や愛着の度合いを表す言葉】を育て、顧客との間の相互依存的な関係を発展させる。これには数年かかるかもしれない。また、2つの鍵となる点があることを見落としてはならない。品質と存在感だ。顧客ロイヤルティを育てるには、質の高い野菜を提供することは必須だ。常に野菜は洗い、土を落とし、見栄えよくしておく。市場や、CSAプログラムの商品届け先 (drop-off points) に顔を出そう。質の高い野菜を育て、常に新たな気持ちで前向きな関係を顧客と築いていくために日頃から顔を合わせるようにする。そうすれば、大規模、機械化、顔の見えないビジネスは、到底あなたに太刀打ちできない。

 

小さな市場向け野菜農園でも利益が出せる

 市場向け野菜栽培は少しずつでも始められる。始めの年は生産高にして(約800平米より小さい借地での)2万ドルの売上だった。次の年は、2倍以上の5万5,000ドルだった。3年目は新しい機具を購入したり、現在の農園に拠点を移した。耕作地が約6,000平米に増えたことにより、総売上は8万ドルになった。その次の年に売上が10万ドルを超えたとき、私たちの小さな農園は、生産高・経済的成功の点においてこの業界の大部分の人たちが従来は不可能だとしてきたレベルに達した。以後も、私たちの農園はただひたすらに成長し続けている。

 市場向け小規模菜園を始める際、私たちの場合は3万9,000ドルで全ての必要な用機具をそろえることができた。温室、ビニールトンネル2式、灌漑用具、手押し耕運機と付属品、野菜保管用の冷蔵室などが含まれる(後述「初期費用」ご参照。全ての用機具リストが記載してある)。多額の支出に聞こえるかもしれないが、3万9,000ドルを返済期間5年間・年8パーセントの利息で返済とした場合、私たちが1年で返済してきた額は9,500ドルだ。集約的市場向け野菜栽培が産み出す潜在的収益と比べれば、こうした支払いは私たちには全く問題にならなかった。さらに、何百エーカーにも及ぶ産業化農場の費用と比べたらこの額はきわめて低い。

 もちろん、初期投資は農園にかかる費用だけではない。頼れる配達車両や、借地料もしくは土地購入費、公共料金といった一定の必要経費については含まれていない。この円グラフ (this pie chart) を見ればわかるように、年間予算の19パーセントはローン返済にあてている。大きな比率(33パーセント)の部分は、2人のフルタイム人件費だ。この2つをのぞくと、残りの48パーセントは公共料金、保険、燃料費、種代、土壌用資材、梱包・販促資材、他必要品に割り当てられている。全体的に見れば、昨年の生産経費は9万8,914ドルだ。

 これを聞いて怖じ気づく人もいるかもしれない。しかし、後ずさりする前に、私たちの昨年の収入は15万4,386ドル、内、実収入は5万5,472ドルだったことをお知らせしておきたい。妻と私はこのレベルの収入で家族4人の生活を切り盛りできている。さらには、私たちは誰に雇われているわけでもなく自分たちのボスだ。この大地とつながり、命の糧を育む人生を送っている。新鮮で健康的な食べ物を食べ、冬は休業期間だ。金持ちになっていくことはないが、この仕事を尊いと心から思い、誰のお仕着せでもない自分たちが創造した生活を送っている。

 

CSAモデルの利点

・売上保証

地域支援型農業 (CSA) の一番の利点は、シーズン始めに生産の前払いがされることだ。種まきもされないうちに前払いがされることも多い。このモデルを利用すればかなりの正確さで予算を組むことができる。

・生産プランの簡素化

メンバーによって生産分の前払いが既にされているため、農家は売上に基づいて生産プランを立てることができる。客数が正確にわかった状況で、宅配内容を計画することができる。一年の生産計画の経験に乏しい農家には特に重要な点だろう。

・リスク共有

CSAプログラムの理念は、農業につきもののリスクを農家とメンバーで共有することだ。メンバーに登録するということは、あられ、旱魃その他の自然災害の時も受容するという契約に同意したことになる。そのシーズンが豊作であればメンバーは計画以上に生産物を受け取れるが、出来が悪かった場合は割り当て分が少なくなる。農家にとって、収穫について保険をかけているようなものである。

・顧客ロイヤルティ

CSAプログラムは、顧客ロイヤルティを育て、農家と客の間に顔が見える関係を育てていく。私たちのCSAプログラムのメンバーの多くは、今日まで長年にわたり野菜を買ってくれている。こうしたメンバーは私たちがどういう人間か知っており、農園を訪ねてきてくれたこともある。私たちの仕事にとても感謝をしてくれている。その名の通り、地域で支える農業には地域を築く力があるのだ。

 

初期費用

・温室 (760cm x 3,050cm): 1万1,000ドル

・手押し耕運機及び付属品: 8,500ドル

・ビニールトンネル (460cm x 3,050cm) 2式:  7,000ドル

・冷蔵室: 4,000ドル

・灌漑設備: 3,000ドル

・ボイラー: 1,150ドル

・火炎除草機: 600ドル

・室内育苗用具: 600ドル

・鍬及び車輪つき鍬: 600ドル

・不織布、虫除けネット及びビニールカバー: 600ドル

・電気柵: 500ドル

・収穫用カート: 350ドル

・播種機: 300ドル

・収穫カゴ及び計量器: 300ドル

・ブロードフォーク: 200ドル

・レーキ、スコップ、鋤、運搬用一輪車: 200ドル

・噴霧器: 100ドル

合計: 3万9,000ドル

 

ジャン=マーティン・フォーティエール (Jean-Martin Fortier) はケベックの市場向け野菜栽培農家。ブロードフォークを用いた野菜栽培をしている。受賞作品「The Market Gardener」の著者。今後公開予定のドキュメンタリー「The Market Gardener’s Toolkit」に主演。

「The Market Gardener」の詳細は、「Grow Better, Not Bigger: An Interview with Jean-Martin Fortier (規模を大きくするよりも、もっとたくさん育てよう:ジャン=マーティン・フォーティエールへインタビュー )」、もしくは「The Market Gardener」からの引用記事「Organic Weed Control with Jean-Martin Fortier (ジャン=マーティン・フォーティエールのオーガニックな雑草管理)」をご参照。

 

愉しく暮らしを創る

マザーアースニューズ

購読登録はこちらからどうぞ

 

Market Gardening: How to Make a Living on 1.5 Acres

By Jean-Martin Fortier 

December 2015/January 2016