グラスフェッド肉の多くの利点

この話は二つの数、5.0と6.8によっている。

5.0(今日のチェーン食産業を支配する数)ではあなたと環境が苦しむ。人間にとっては、さらなる肥満、糖尿病、心臓病、免疫の弱まり、脳の衰え、痴呆を意味し、さらにガンも増えるだろう。環境にとっては、二酸化炭素の増加、さらなる洪水、浸食、小川や湖の枯渇、虐待が増える事を意味する。しかしながら、数を6.8に上げると、これらの問題を減少する事が出来る。

pH値について熟考する。

 この二つの数は生態系の健康を評価するもの、それは何千年もの時間を通して現在の形になった人類の進化の要であった。その生態系は今でも重要。なぜなら人間性の基本的な事実は変わらないから。私たちは草地で繁栄する、脳の大きい直立するホ乳類なのだ。

 他の臓器に比べると、人間の脳はエネルギーを貪欲に消耗する。さらに私たちの脳は大きいため、単位重量あたり、他の動物よりもカロリーや栄養を必要とする。直立の姿勢は、体の構造、特に体の中心部分に異常なほどの圧迫を与え、小さく筋肉のある腹部を要求する。内蔵が多くの食物を一度に消化する場所はないのだ。

 草は人間にとって(直接的には)無用の物。食べられないのだ。草のエネルギーはセルロースの中に閉じ込められていて、私たちはカロリーを切離す腸の強さ(もしくは大きさ)を持っていない。そこで、進化の過程で動物との取引が成立した。私たちは草の消化を、鹿、カモシカ、ジャコウウシ、象、トナカイ、オオツノシカ、オーロックス、やぎ、羊などの動物、そして現在では特に牛に託したのだ。

 これら全ての動物は 反芻胃と呼ばれる発酵おけを中心とした、空洞状の内蔵を持つという共通点がある(その為に反芻類と呼ばれる)。全ての発酵おけと同様、反芻胃は生態系をもつ。セルロースを有用な蛋白質に分解出来る特有な能力をもったバクテリアを、中に宿して成り立っているのだ。バクテリアは反芻胃の内部の友好的な環境に頼っている、特に牛の胃は偶然にも最高の酸性度、中性に近いpH6.8の測定がされている。

進化を破壊している

 進化の過程を考慮すると、草の代わりに穀物を反芻類に与える事は、(現在チェーン食産業において、ほとんど全国共通のやり方である)全ての動物目の基本的な機能をもてあそぶ過激で傲慢な実験である。穀物の濃密な炭水化物は、反芻胃の生態系を完全に作り替え、ph値を5.0に変える、これは「酸性症」という症状を起こす。この症状を持つ牛は、健康な牛の200倍の濃度の酸を反芻胃に持つ。穀物は牛を病気にし、この問題においては有機的に育てられた牛も同様である。そして被害は、人間の健康にも反映する。

 通常の草が好きなバクテリアは、セルロースを消化して炭水化物と必須脂肪酸の化合物を生み出す。この脂肪は私たちの体に不可欠だが、人間の体内では製造できない。健康な草で育ったグラスフェッド牛の消化システムは、オメガ3などを含む体に有益な脂肪酸が多く混合された脂肪を与えてくれる。穀物を与えられた牛の、病的で酸性の反芻胃は、オメガ6脂肪酸を多く作る栄養素を生み出す異種のバクテリアを育てる。研究によると、オメガ6を多く取る食事は、炎症を起こしやすくし、様々な健康問題(肥満、心臓病から痴呆まで)を引起こす。(ここ数十年オメガ6を多く含むベジタブル油の使用が増えたが、これもオメガ6とオメガ3をバランス良く摂る方向に移行している。詳しくは次号の記事で。)

 健康的な反芻胃は、牛が、草や灌木、広葉草本(様々な深根性多年生植物)を食べて来た決定的証拠。反芻類は莫大な量を食べなくてはならないので、広範囲を歩き回る。様々な種類を食べると、牛乳と肉の中にミネラルや微量栄養素の配合が濃縮される。この現象は反芻類にとどまらず、豚や鶏にも言える。後者2つは反芻類ではなく雑食動物だが、多年生の牧草を食べると、ミネラルや微量栄養素を体内に蓄積する。多年生の牧草は根が深く一連の重要な栄養素と微量のミネラル(銅、マグネシウム、ヨウ素等)をもたらし、これらは根の浅い一年草の穀物では作れない。

 多くの調査がこの結果を生み出した。例えば、グラスフェッド牛の有益性に関する入手可能な出版物を全て考察した2010年の評論文は、工業的製品と比較し、グラスフェッド動物の肉、卵、乳製品には必要なオメガ3脂肪酸がより高く含まれるという主張を確証した(グラスフェッド vs.工業牛をご参照)。この評論文では、グラスフェッド肉の中で、他の重要で有益な脂肪と、βカロチン、ビタミンE、ガンと戦う抗酸化物などの栄養が増加しているのを確認した。グラスフェッドシステム支持者(また、その他の調査の筆者)は、本当の所、これらの結果は控えめすぎると言っている。


肥育場の問題

 穀物で育った動物の卵やミルク、肉はほとんどが、閉ざされたシステムと肥育場から来ていて、多くの問題がこの事実から生まれている。まず、酸性の反芻胃は牛を病気にするため、商業的酪農の牛は、なんと3年から5年の恐ろしく短い寿命を持つ。酸性症のため、全ての肥育場の動物は感染し易い免疫を持ち、それを補助するため連続的な抗生物質の投与を必要とする。この問題の持つ、抗生物質への抵抗力を通した人間の健康への脅威は、深刻であり、充分に裏付けされている。

 肥育場は明らかに残酷、しかも、目立たないがその副産物の影響も恐ろしくひどい。例えば、狭い閉ざされた区画に仕切られた酪農場と肥育場からの糞尿の山がもたらす環境への脅威が、当然の事ながら注目されてきている。肥育場を使った酪農の激増に悩まされているアイダホ南部を調べた最近の合衆国地質調査所によると、肥育場用の穀物と貯蔵生牧草を育てた畑は、肥育場の糞尿自体の2倍も窒素の汚染が酷い事を示した。

 肥育場が残す巨大な環境負荷はぞっとするような未来をもたらす。例えば、英国で24億平米を管理するナショナル・トラスト[the British National Trust]は、環境全般に関する肥育場の代償と牧草地の利益に関する調査の徹底分析を2012年に行なった。その調査報告書は、トラストが行った調査だけでなく、入手可能なアメリカとブラジルの文書も言及し、牧草地に有利な結論を出した。報告書によると、地球温暖化の削減が重大問題だ。憂慮する科学者同盟の2006年の報告書でも似た様な結論が提出され、肥育場を使用した密集舎飼い養畜(CAFO)による環境への代償を裏付ける確証も含まれている。


直線 vs 生命の循環

 工業的農業は直線的。肥料、種、水が投入され、牛への穀物と、トーファーキー(七面鳥を模した豆腐)を作るための大豆が産出される。単一作物の農場が、栄養の循環を無水アンモニア肥料を吹き出すノズルのみに頼っていて、健康な生態系ではない事は簡単に見てとれる。

 しかしながら、ただ単に、原生の草原に通常生息する200から300種類もある植物で、トウモロコシと大豆を置き替えるだけでは、循環的で持続可能な生態系を作る事は出来ない。そのシステムには放牧された動物とセルロースを消化し再利用できる反芻胃が必要なのだ。それ無しでは、草は年をとり生い茂るだけで、その栄養素は閉じ込められたままになる。何故なら動物はそのような成長した草に見向きもしないからだ。

 生態系には周期性があり、生と死の循環はエネルギーを取り込み、保存し、再投資する。死と腐敗は栄養素を再利用し、それが生態系の生産能力のに不可欠だ。持続可能な草原の生態系は植物、微生物、放牧された動物が必須。反芻胃を持つ大きい動物が全体の工程を行い、その動物無しでは健康的な生態系はあり得ないのだ。

肉をやめるか、それともやめないか

 動物の肉を食べるか食べないか検討する消費者には、検討を進める2つの方法がある。一つには牛乳、肉、卵を食べるのをやめること、この決断は、人の病気や、肉と牛乳の環境破壊を追求する近視眼的な調査の全体から表面的に支持されている。この調査のほぼ全てが、肥育場に囲い穀物で育った動物の食品に基づいている。この動物食品自体の脂肪酸データ(オメガ6が非常に高い)は、研究で述べられている人体の健康に有害な効果を説明するのに充分だ。

 しかしながら肉と乳製品を避けることは主要な栄養素の欠乏を意味する。ここでは、グラスフェッド牛と穀物で育った牛の違いに私たちは集中してきたが、この二つのシステムには共通点が沢山ある。両方とも野菜から摂るのは難しい、高い濃度での必須アミノ酸(蛋白質)を含み、ビタミンA、B16、B12、D、E、そして鉄、亜鉛、セレン等のミネラルも同様に含む。良い放牧を行なうと動物性食品のβカロチンを強化する。これは、良い脂肪、卵、牛乳、バターは、濃い黄色もしくは、オレンジ色になる事を意味する(βカロチンが豊富な人参で一目瞭然)。乳製品と動物性の脂肪にこの色が見えたら、よい放牧がされた証拠だ。

 このグラスフェッド動物の食品が持つ、より高い栄養密度で、別方向の議論が始まり(避けるのではなく)、むしろ健康的な生態系を補助する方向に向かうのだ。有効な生態系の魔法は、まとまった全体は、個々の総和よりも偉大だという事。そのため一点のみ細部に注目した還元論の調査は、全てを説明しない。それでも、グラスフェッド動物の利点に対する説明は説得力のある事例だ。

 栄養:あらゆることが示すように、グラスフェッド動物の利点は数多くある、特に脂肪酸の面において。これは些細な事ではなく、断片的な証拠が示唆しているが、付随的な栄養面での利点がグラスフェッド動物食品の優位性の一因となっている。

 環境:ある調査は、草食を基にした生産システムは炭素隔離を増やすと言っている。これはグラスフェッド動物の肉は、工業的食肉生産よりも二酸化炭素排出量が少ないであろう事を意味する。草食を基にした生産は明らかに浸食を減らし、エネルギーの使用が少なく、化学的な肥料と殺虫剤を減らす。

 社会正義: 肥育場を使う酪農家がひしめくアイダホ州南部のいくつかの郡を詳しく調べてみると、産業自体の受け入れにより、80から90パーセントの労働者は正式に登録されていない移民者が占める事が分かった。これらは酷い仕事であり、子供達の貧困と低賃金が、この地域を悩ませている傍ら、収入と農家への補助金は少数の巨大農家だけに集中している。一方、2006年のウィスコンシン大学による、酪農が集まる州のあらゆる種類の農家への調査によると、ほぼ25%の酪農生産は放牧された動物からのもので、牛に多年生の牧草を食べさせている農家は、人生において最高の満足感を得ていると報告している。

 経済活力: グラスフェッドの酪農生産は、補助金からではなく、利益によって全ての分野で成長している。社会は理解し始め、私がここでまとめあげている問題に対し行動をとり始めている。

放牧による生産は正しい

 2010年、 Agricultural Systems 誌が、「米国北中西部における、3つの牛肉生産法のライフサイクルによる環境インパクトの比較 (Comparative Life Cycle Environmental Impacts of Three Beef Production Strategies in the Upper Midwestern United States.)」という題名の記事を出版した。その記事によると、肥育場での牛肉の生産は、グラスフェッドよりも環境への重圧が少ないと結論づけた。それは、放牧された牛を買いに走る私達を立ち止まらせるであろう、ある程度は考え深く、根拠のある事実報告だった。記事は有効な推測によるもので、その一つは、アイオワでの放牧牛の運営(農家の典型としては、トウモロコシの後作に一年生牧草の種を蒔き、肥料を与えて牛を放つ。その放牧では毎年、「牧草地」の種蒔き、回復、施肥に巨大なエネルギー費用がかかる。)から計算された数字に基づくものだった。

 これは詳細の中に隠れた悪魔、だからこそ、グラスフェッド肉の栄養や、環境への影響の多くの証拠は非常に価値があり、矛盾さえしている。一種類の一年草(通常麦)での放牧は、多年生の牧草地での放牧と、同じではないのだ。しかし、十分に管理されていない放牧からの肉さえも、合衆国農務省の「グラスフェッド」の表示を誇って付けることが出来る、なぜなら、牧草が動物のただ一つの栄養源であれば基準を満たす事が出来るからだ。そこの動物は理想のph6.8の反芻胃を持つであろうが、一種類の牧草で育った動物の肉の栄養は、多年草の生える牧草地の根が深く、深い土から栄養を吸い上げる植物を食べた動物からの栄養とは同等ではないのだ。

 合衆国農務省 (USDA) の基準は十分ではない。グラスフェッドのムーブメントは、北米の大草原を何千年もの間支配した野生の反芻類、バイソンなどの影響を真似る「良く管理された集約移動放牧 (managed intensive rotational grazing)」と通常呼ばれるシステムに力を注いでいるのだ。

 多くのグラスフェッド肉の利点は一般的に、多年生の牧草で運営すると大幅に増幅される。例えば移動放牧では、草やその他の植物の根が抜け落ちて新しい根を生やす。死んだ根の多くは炭素であり、これは土の中の炭素隔離の推進力となる。牧草地は光合成と共に炭素を土に溜め込んで、肥えた土となる。同時に、残った根が深く張り下層土にある栄養に届く。多くの種類の虫、はう虫、微生物が土壌中の死んだ生物を消化して、生物多様性が増す。自然の草地で行われるのと同様に、マメ科の植物は窒素を固着する(種や肥料まき、土の入れ替えは必要ない)。言い換えれば、生態系の回復による恒久的な持続性が最終目標なのだ。多年生の牧草地での移動放牧が正しく行われれば、前に取り上げたアイオワの農耕地でのエネルギーにかかる費用は全く発生せず、賃借対照表をあっという間に改善するだろう。

 憂慮する科学者同盟による「Raising the Steaks」という2011年の報告書では、これら全ての深刻な問題を取り上げている。重要なのはただ放牧するので無く、どう放牧するかという事。報告書では、良く管理された放牧は特に環境へのインパクトとメタンガスの生成において利益をもたらす、という結論を出した。修復された生態系のように働く、管理された多年生の牧草地からの、質の良い飼い葉を牛が食べている場合、一年草に放牧された牛に比べて、メタンガスの産出量は減る。憂慮する科学者同盟の報告書は、飼い葉が良ければ良い程、メタンガスの量はより少なくなると確証した。

 遺伝も草を基本とするシステムを成功に導く役割を果たす。最近の牛は肥育場に合うように品種改良されてきた、しかし、昔ながらの品種が現在いくつか復活し、草を食べさせると肥育場用の牛よりも数ヶ月早めに太り、使用できる部分の肉が多くとれる。

 これらは全て、経済と環境の効率の計算に関連するが、そのような計算は発表されている調査を見る限り、ほぼどこにも存在しない。肥育場から、むしろ酷い管理の牧草地への移行で、私たちは正しい方向に向いている。その後は、私たちが、地元でとれた物を買い、生産者を知り、学ぶび、合衆国農務省の既存の「グラスフェッド」表示が求めるよりも、より厳しい基準を要求する事で、スマートで環境に良い放牧に持っていけば良いのだ。

 グラスフェッドのシステム支持者は、良い移動放牧を判断する指標があると言う。良く管理されていない牧草地は、肉を固くし、まずくする、そして牛乳やチーズは味に深みがなくなる。良く管理された根の深い牧草地は、味が良く、健康に効果がある製品を作る。簡単に言えば、私たちが味や質、栄養を見る事で判断出来き。これは、問題を発見するためにその問題を受け容れるという上級者の方法だ。


The Many Benefits of Grass-Fed Meat

By Richard Manning

April/May 2015


マザーアースニューズ

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