肉を食べるのを減らし (食べるのはグラスフェッドの動物にし)、健康になり、動物も環境も愛護する。
10年前、米国では1人当たり年間約92kgの肉を食べていたが、周囲から特別視されることはなかった。アメリカ人は肉を食べるものだ、という共通の認識があったからだ。歴史学者のロジャー・ホロウィッツ(Roger Horowitz)の著書「アメリカの食卓で出される肉 (Putting Meat on the American Table)」によると、「開拓時代より、肉を食べることは米国食文化に欠かせない要素だった」とあり、毎日170~227gの動物性蛋白質を食べる習慣は「我々の社会を定義づける特徴だった。」という。
ほんの10年前、ベジタリアンは変わり者で、ビーガンは珍しい存在だった。肉よりも植物を選ぶという思想は、東海岸や西海岸の健康オタクや宗教的な人たちによく見られる特徴であり、中部アメリカとは無縁だった。2004年から2007年まで、1人あたりの肉(牛、子羊、豚、家禽類)の消費量は、常に年間90kgを大きく超えていた。この時アメリカには、「フレキシタリアン(緩やかな菜食主義者)」という語彙は無かった。(この単語は2012年にメリアム・ウェブスター辞典に追加された。)
この後、米国の食卓にも不況の波が押し寄せた。2008年には、アメリカ人1人あたりの肉の年間消費量が7年ぶりに90kgを下回った。米国で定番の肉である牛肉の1人あたりの消費量は1980年代より徐々に減り続け、ようやく過去50年間で最も少ない28.1kgになった。米国農務省(USDA)の報告によると、2011年までに1人あたりの肉の消費量が84.6kgにまで減少したという。肉を重んじる食文化に一石を投じる役目を果たしたのは、景気だけではない。過去5年間に、動物保護、食の安全、個人の健康、環境に与える影響など、さまざまな理由から、多くの人々の間で肉に対する認識や関わり方が変化した。ビル・クリントン、エレン・デジェネレス、マイク・タイソンなど、一部の著名人は、肉食をやめたことを公言した。ベジタリアンとビーガン【肉・魚介類などに加え、卵や乳など動物由来の食品を一切摂らない人】たちは、「カムアウト(come out)」した(ワシントンポスト紙のフードエディター、ジョー・ヨーナン(Joe Yonan)が自分の食生活の変化をこのように表現)。新たにベジタリアンやビーガンになる人の数も少しずつ増えている。2012年のギャラップ世論調査では、調査対象者のうち5%が、自分はベジタリアンであると答えた。ギャラップ世論調査史上初めて、回答者に対して「自分はビーガンだと思うか」と質問したところ、2%がそう思うと答えた。
2012年に実施されたNPR-トゥルーベン・ヘルス・アナリティクス(NPR-Truven Health Analytics)の調査によると、回答者の56%が、肉を食べるのは週に1~4回以内であると答えた。これは、週7日間、1日3回肉を食べていた米国の伝統的な食生活が著しく変化したことを示している。
私たちアメリカ人が肉食をやめることはほとんどない。アメリカ人は今でも1日約227グラムのペースで肉を食べており、米国心臓協会が推奨する1日あたりの低脂肪肉の消費量85~170gよりもはるかに多い。それでも、アメリカ人が食べる肉の量は少しずつ減少している。
5年ほど前まで、お皿に乗せる肉の量を減らすことは、飽和脂肪を減らし、コレステロールを下げ、心臓疾患やその他の慢性病のリスクを軽減するための食事療法であるという考え方が一般的だった。しかし、肉を食べる人たちは、何を食べるのかを決めるにあたり、この他にもさまざまな要素を考慮し、従来の健康に関するアドバイスが今でも正しいのかどうか疑うべきだ。特に、工業的に生産された肉に関する議論はますます高まっている。肉を工業的に生産するシステムには、環境への影響や非人道的な飼育環境の問題、抗生物質が効かない食品媒介性疾患の蔓延を助長するといった問題があるからだ。
環境への影響
スーパーマーケットで販売されているほぼ全ての牛、鶏、豚肉(米国で最も多く消費される3種類の動物性蛋白質)は、工業的な超大規模農場で生産されている。米国環境保護庁(EPA)は、このような超大規模農場を次のように定義している。「動物を閉じ込めた状態で飼育する農業企業。」「(このような巨大農場は、)小さな土地に、動物、餌、糞尿、動物の死骸、生産工程を集約している。飼料は動物の下へ運ばれ、動物が牧場や野原、放牧地で草を食べることはない。」
EPAは、このような工業的な農場の15%が、「集中家畜飼養施設(CAFO)」であると見なしている。
CAFOの定義の1つに、一定面積あたりの動物の個体数がある。例えば、鶏の大規模CAFOは125,000羽以上を収容する施設、肉牛の大規模CAFOは1,000頭以上を収容可能な施設、といった具合に。
工業的な農場で飼育されている動物は、主にトウモロコシと大豆といった商品作物を食べる。農場法(Farm Bill)によって、これらの商品作物には補助金が出るが、その財源は税金によって賄われている。北米全土の半分の農地(約6,030万ha)では、動物の餌用として、ラウンドアップ等の除草剤に耐性のある遺伝子組み換え(GM)作物が生産されている。遺伝子組み換え作物は、除草剤への耐性がある「スーパー雑草」の異常発生を引き起こした。2012年には、遺伝子組み換え作物を作付けしている農地のうち、2,468万haにスーパー雑草がはびこった。結果的に、除草剤の使用量は減るどころか増えた。また、遺伝子組み換えされた複数の形質を種子の中に「組み込む」ことにより、強力な除草剤を混ぜ合わせたものを作物に対して使用できるようになった。
肉牛には、体重増加の速度を早めるため、アナボリックステロイドに加え、俗に「成長ホルモン」と呼ばれているエストロゲン、アンドロゲン、プロゲスチンが与えられている。EUでは1988年にこれらのホルモン剤の使用が禁止されたが、米国では現在でも広く使用されている。オーガニック消費者協会(Organic Consumers Association)は、公式見解の中で「屠畜の段階で、筋肉、脂肪、肝臓、腎臓、その他の内臓肉に、相当な水準の成長促進ホルモンが見つかった」と発言しており、「牛肉を食べるアメリカ人はすべて、過去50年間にわたり、日常的にこれらのホルモンに曝されてきた」という。さらに豚にも、食事と共に成長ホルモンが与えられている。ただし、米国における鶏への成長ホルモンの使用は、1950年代より法律で禁止されている。
動物の成長を促進し、不衛生で過密な飼育環境を補完するため、動物の飼料には、低水準用量(いわゆる「治療用量以下」)の抗生物質が含まれている。2010年に米国食品医薬品局(FDA)が承認したデータによると、米国で販売された全抗生物質の約80%が家畜に投与された。これらの薬物は糞尿を通じて土や地下水に浸み出し、最終的には近隣の川や小川を汚染する。
2004年の「議会に対する水質報告」(この様な報告はこれが最後)の中で、EPAは、約94,000リバーマイル【河口から計測して151,274km】の川と小川を汚染した「主な汚染源」として工業的農業を挙げている(全リバーマイルの40%が調査された)。
2013年後半、FDAは製薬業者と工業的な畜産農家に対し新しいガイダンスを発行し、家畜に成長促進効果のある抗生物質を使用することについての所見を述べた。ただし、このガイダンスは実行性のある規制ではなく、実際に従うかどうかは任意とされている。 薬物以外の主な汚染源として、動物の糞尿が挙げられる。EPAによると、2007年、米国のCAFOで飼育されている家畜から約5億トンの糞尿が排出された。これは、当時米国の全人口が排出する人間の糞尿量の3倍に相当し、CAFO周辺の土が吸収できる量をはるかに上回るという。CAFOでは通常、このように大量に排出される糞尿を屋外にある巨大な穴(通称「糞尿ラグーン」)に貯蔵するが、時々漏れたり溢れたりする。
一方、放牧されている家畜の糞尿は、健全な土作りに役立つ。近年増加している研究により、放牧家畜は、農地にだけでなく、放棄された草地や浸食された草地にも恩恵をもたらすことが指摘された。
USDAは2011年、米国南東部のピードモント台地(ニュージャージー州からアラバマ州中心部にかけて広がる広大なエリア)における放牧家畜の草食行為(および糞尿生産)と、養分欠乏状態にある土壌の回復との関係についての調査結果を発表した。
「環境保護の視点では、、、」USDAは報告書の中で次のように述べている。「草地は利用せずに放置するのが最良の管理方法である、というのが従来の考え方だった。
ところが、今回の調査の結果、放牧地は非放牧地より多くの草を生産したこと、そして、放牧地の土には最大量の隔離された【すぐに大気中に放出されるのではなく、植物、土壌あるいは海洋に貯蔵された】炭素と窒素が含まれていたことが明らかになった。」
この研究結果は、ジンバブエ人の生物学者アラン・セイボリー(Allan Savory)の発見と一致する。彼は、幅広く視聴されている2013TEDTalksで講演し、「放牧家畜を管理すれば、砂漠化した土地を元に戻すことができる」と主張した。
放牧家畜の糞尿によって形成されたマルチの層は、劣化した土壌が雨水を吸収したり炭素を貯蔵したりするのを助ける上、マルチは土の温度を一定に保ち、メタンガスを分解する、とセイボリーは言う。 世界に残っている草地全体のわずか半分の面積に放牧家畜を持ち込むことで、「私たちは、大気中から炭素を取り出して、数千年間草地の土中に安全に貯蔵できる。」というのが彼の意見だ。。。
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By Kim O’Donnel
June/July 2014
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