バイオ集約と30cm四方農法の原則の良いところを混ぜ合わせ、自分好みで収量の多い栽培のしくみを生み出す。
広大な敷地で作物を育てるか、都会の庭を初めて堀り起こしているところかということに関係なく、作物を畝で植えるのを止めて、集約栽培(intensive gardening)のテクニックを取り入れることで、より生産的で効率的に管理できる畑にすることができる。これらの方法は省スペース菜園にとって、ベランダにポツンと置かれたいくつかの鉢というだけでない、それ以上にもっと豊かで新しい可能性の扉を開いてくれる。うまくやればより少ないスペースでより多くの作物を育てられるので、家庭での野菜の購入量がびっくりするほど下がるかもしれない。
定評のある2つの集中菜園作りの方法を比較
園芸書の2人の著者と彼らの集中菜園農法は30年以上北米で大きな影響をもたらしてきた。メル・バーソロミュー(Mel Bartholomew)の「30cm四方(square-foot)」 農法の本は1981年に初版が出され、もう一方のジョン・ジェヴォンズ(John Jeavons)の「バイオ集約(biointensive)」 農法に関する初著書は1974年に出版された。これらの本が発売されてから実に多くの人々が彼らが提唱するテクニックを試し、自分たちの菜園作りに取り入れてきた。
バーソロミューの30cm四方農法は、シンプルで誰にでもできる間違いようのない方法だ(混植、輪作、土壌の準備のどれをも必要としない)。彼のやり方では、ほとんどの作物に対応するたった15cmほどの深さのレイズドベッド【raised bed:囲みの中に土を入れ高くした植床】に、ピートモスとバーミキュライトとコンポストを人工的に混ぜたものを入れる。この方法は購入した資材に頼ることになるが、都会などで特に土壌の汚染などが問題になっている場所や地面を掘ることができない場所、また庭の見た目の良さが求められる地域(おそらく前庭の芝生に関する条例など)で活用できる。
ジェヴォンズのバイオ集約農法は最初に60cmの深さに掘った常設植床(permanent garden bed)に肥えた土壌を作り上げることを基本とするシステムだ。彼が本来目指すのは外からの投入をできるだけ減らした持続可能な食物の生産だ。彼は栽培計画やコンポスト作り、混植、輪作、食用にもコンポスト用にもなる作物の育て方などの細かい説明を提供している。
集約農法の4つの原則
どちらの農法も高い収穫量の菜園を実現できるのだが、この異なる2つの農法には大いにお勧めしたい4つの共通項がある。
1. 常設植床。常設の植床を確立することで、コンポストや灌漑用水を無駄にせず、植物が育つ範囲にだけ努力を集中できる。またそうすることで歩く範囲と栽培範囲が確定し、土壌圧縮の問題もなくなる。このようなやり方はここ太平洋岸北西部ではかなり一般的で、畝で植えられた畑は何年も見ていない。
2. コンポストを信頼する。どちらの農法も、健康な作物が育つのに必要なバランスがとれてゆっくりと地中に放出される養分を供給するためにコンポストを大量に使用する、というあらゆる有機農法で実証済みの土台の上に成り立っている。またコンポスト中の有機物は土壌の水分保持力を向上させ、質を改善する。
3.高密度で混植する。両農法の高収穫量の鍵となっているのは、畝の間に間隔をとるのではなくて、耕作面積全体を有効利用することだ。その結果スペースを増やさなくても、より多く収穫できるようになる。おそらく初心者にとっては、バーソロミューの30cm四方で畑をつくるやり方は、どれくらい密集して植えてもいいのかを視覚化してくれるので特に助かるだろう。根の深さや高さ、成長率の違う作物を散在させることで、限られたスペースにより多く植えることができる。
4. タイミングよく続けて植える。成長の速度が異なる作物同士の栽培は、収穫のタイミングも異なり収穫期間を伸ばすことができる。収穫後、あいたスペースをすぐに次の作物で埋めることで、一年中耕作地のスペース全体を有効利用できる。
自分流の集中農法を確立
肥えた土壌と密集栽培でどんな畑も 高収穫が望めるが、この 2 つの集中 農法が示すように高い生産性を実現 する方法はひとつではない。私自信 はシンプルかつ手入れが楽(なんといっ ても人のエネルギーだって価値ある 資源だから)なところが気に入ってい るのでバーソロミュー側だが、持続可能な営みはジェヴォンズから学ぶとこ ろが多い。非再生資源 ― 運搬にか かる石油や深部帯水層からの灌漑用 水、ピートモスでさえも ― の使用を極 力抑えることは重要な検討事項であり、 実際多くの園芸家が思っていることだ ろう。30cm 四方農法は再生可能資源 ではない大量のピートモスを購入する 必要がある。ココナッツのコイア(ココ ナツの外皮の繊維)の方がより持続可 能な選択肢だ。
時間や経験、地域や環境によってど んな園芸家も自分に合った方法を作 り上げる。成功している農法の共通性 を集めようと過去数十年で何百人もの 園芸家と話をした結果として、ここにあ げる提言が高収穫で手のかからない、 持続可能な畑づくりに役立つだろう。
地元の環境に合わせる。 土壌、気 候、水環境、コンポスト資材、病害虫 は住むところによって変わるので、地
元の先人たちから学び、その地域の 情報を集めること。(各州や地方のマ ザーアースニュースのフェイスブック ページで近くの園芸家とつながろう。 www.facebook.com/MotherEarthNew sJapan )菜園用のスペースや資材の 運びやすさなども庭造りに影響を及 ぼすだろう。もし都会の小さな畑なら、
ジェヴォンズが提案するような堆肥化 可能な炭素質の作物を育てるのは難 しい。その場合、肥料と有機物を落ち 葉や新聞紙と生ゴミを混ぜたものなど で作り出す方が現実的だろう。だがもっ と広い畑でなら堆肥化可能な作物や 緑肥作物を育てるのが土壌の有機質 を築き上るのに一番有効だろう。
常設で。 常設の植床を使うことの有 効性は疑いの余地がない。しかしそ れを揚げ床にするかどうかは周りの環 境と個人の好みによる。揚げ床 ― 側 面を囲んだ中に土を入れて周りよりも 高くした畑 ― は低地での水はけをよ くし、春には温まるのが早い。年配の 人や身体が不自由な人には作業がし やすく有効だろう。だが水はけのよい 土地では揚げ床でないほうが水やりも 少なくてより有効かもしれない、そして もちろんベッドのための柵をつくる手 間と出費がかからなくてすむ。
土を使う(あれば)。 バーソロミュー の農法の問題点は、作物を育てる媒 体を作るための資材を、購入するしか ないという点だ。お金もかかるし、自分 の土地の土壌を改善できるわけでも ない。バーソロミューが土壌の改良に は時間がかかりすぎると懸念するのに 対し、私の経験では必要によってバラ ンスのとれた有機肥料を与えるなど有 機質の修正を加えれば、どんな土壌 も最初の数シーズンで作物が作れる ほど改善できた。コンポストを惜しみな く利用することで、砂質土の養分と水 分保持力を向上し、粘土質土の構造 を改善することができる。節水という点 では大地に直に植えたほうが、植物 が下層土の毛細流の恩恵を得ること ができるので、プランターや揚げ床よ りも灌漑が少なくてすむ。この水分の 上昇する動きは土壌の質によって 60 から 2m40cm の深さから起こる。根の 深い作物は直植えの方が、根が温度 の急激な変化にさらされないため、プ ランターや揚げ床より急な寒さや熱波によく耐える。もちろん、一番日当たり のよい場所が舗装された駐車場だな どという場合は、ぜひとも揚げ床(深ければ尚良し)を作ろう。
安く。 初めてバーソロミューの本を読んだ時、植床の費用から「メルの調合」と彼が呼ぶ培養土のための大量 のかさばる材料を買って運ぶことまで、 文字通り彼の方法に従ったら、なんと 高価になるかと私は驚いた。私にとっ て園芸の美点とは、買うよりも相当安く、 廃棄物をおいしくて栄養のある食べ 物に変換することだ。堆肥は刈り草、 葉、下肥、腐った干し草など、あなた の畑や食料品店、食品工場からの廃 棄物から作れば事実上無料といえる。 たぶん格安な肥料の究極は「尿再利 用(pee-cycling)」で、その効果ゆえ広 く受入れられている。(この方法やそ の他の液肥に関する情報は http://goo.gl/5gcPzt を参照。)
働きすぎない。 1970 年代に初めてジェヴォンズの本に出会った時、私は畑を 2 度耕作(double-digging)する 技法に従うことにした。ジェヴォンズの 元気づけるような教えにもかかわらず、 私はすぐにそれが驚くほどの作業量 であることに気付いた。土の移動を終 えると、植床の全ての土を横に 30~ 60cm、深さ 60cm 移動させたことにな る。ひとつの植床を耕した後、私は残 りを省略し(何も育たないのを気には しても)成り行きに任せることにしたが、 何も問題はないようだった。その夏中 とその後数年間、2 度耕作した植床と 残りの畑との間に相違は見られなかっ た。同様に 1998 年のオハイオ州立大 学による研究でも、表面だけ耕した植 床と、2 度耕作した植床で栽培された 豆とビートについて、有意な収量の差 は見られなかった。
何年にもわたる集約的農法で、私は マルチを積むことは多くの労働の節 約になり、植床の耕作を最小限にし、 大変素晴らしいことだと(私以前の多 くの園芸家同様に)学んだ。研究はな ぜ土を掘り返すことを最小限にするこ とがよいのか適切な理由を提供して いる。耕作の制限により、土壌カラム (土壌の上下方向)に沿って養分や水 を運ぶ有益な菌類が増殖するからだ。 また、かき乱されることが少ない土に は、有益な線虫、ミミズ、土ダニ、その 他の微生物がうごめき、這いまわって いる。バーソロミューの人口培養土も、 ジェヴォンズが力説する 2 度耕作も、 これらの働き者たちを最大限に利用し ていない。
ミミズ、植物の根、土中の昆虫は、土 壌に空気を通すことが大変得意なので、私は彼らに任せて満足している。 私は土を裏返すことなく年に一度、堆 肥や改良剤を表面から 50~75mm ほ ど軽くすき込んでおり、240×120cm の植床で約 15 分の作業だ。その他 の時期、私は耕さずに新たな苗を実っ た作物の間に入り込ませる簡単な相 互栽培(interplanting)をしている。私 はしばしば作物の残余をマルチとして 土の上に残し、それに沿って苗を植 えている。最小の耕起が、私にとって は最小の労力で実り豊かな畑になっ た。だが、これは「きれいな土の」畑と いう美学から少々価値観を変える必 要がある。 草刈りは多くの人にとっておそろし い労働だが、賢明な栽培によって大 部分省くことができる。集約的栽培は 近くの植物の葉が早く繁り、土を影に するので雑草を抑え込む。マルチを 使って土を覆うことは発芽した雑草を 窒息させるのに効果的である。私は 土の上のマルチを栽培期間中できる だけ長く残すようにしているが(北西 部の気候では雑草は冬中生育してい る)、春には撤去し土を乾燥させ、温 める。段ボール、新聞紙、その他遮光 性の物を置いたり、草やクローバーを 蒔いて時々刈ることで脇道の雑草を 制御することができる。刈り取った草 は窒素成分豊かなマルチとして植床 に置く。
堆肥作りは簡単で、全てをごみ容器 に入れて季節が過ぎるのを待ち、大 体分解した材料を畑に撒き、未分解
のものを容器に回収する。あるいは全 く堆肥を作らない方法もある。有機物 を土の上に置いて分解させるのだ。 全ての植物は作物の残余、抜いた草 も含めて、土中の微生物が分解する ので有機物として加わる。根は有機物 のもう一つの資源なので、私は、植床 を片づける時に植物を抜く代わりに土 の表面のところで切り、根を分解させ ることにしている。
単純に。 私は園芸の本の中に方程 式や複雑な図を見ると目がかすむが、 バーソロミューの本もジェヴォンズの 本も、それらが少なくない。私は複雑 すぎたり規範的な栽培指導は省略す ることに一般的に賛成だが、基本的な 園芸記録をつけることは有益だと考え ている。精密である必要はないが、い つ何を植えたか、収穫日、病害ノート を記録することは、来年の園芸を計画 する時に、その情報を基に見通しのよ い調整を可能にするためのよい考え だ。(デジタルで記録するには、マザー の Vegetable Garden Planner、www.MotherEarthNews.com/Garden-Planner を試そう。)
インターネットや他の情報源に浮か んでいる驚くほどの数の園芸規則や 神話は無視すること。例えば、「トマト はバジルが好き(tomatoes love basil)」といった類の共生植物の図は ほとんど神話だ。しかし養分を他の種 類の作物へ循環させ、有益な昆虫を 引き寄せる栽培法の価値は確実だ (詳細は http://goo.gl/XTiYhX を参
照)。私の経験では、大体の輪作法は 無視して差し支えない。なぜなら、多 様な畑で土壌性の病気にかかる作物 は比較的まれだからだ。あなたの畑で 何の問題が起きたのかを知れば、ど の作物を入れ替えればよいか解る。 例えば、私の住む地域では、タマネギ の仲間とジャガイモの根の病気の危 険性が高く、4 年ごとの輪作が効果的。 しかし私は他の野菜については、長 期の輪作は心配していない。
気楽に笑おう。 園芸は個性的で楽 しいものであるべきた。あなたが好き なようにきちんとしても良いし、野性的 であっても良いが、少しの努力で小さ な土地から驚くほどの量の作物を生 産しよう。もし耕作し、堆肥を掘り返し、 栽培容器を設置することがあなたにとっ て具合がよければ、そうすればよい。 しかし、それが豊かな畑のための絶対 条件だとは考えないことだ。個人的に 私は、生産のための時間と努力が少 ないほど、楽しむ時間が多くなると考 えている。
30cm 四方農法の十カ条
1 150mm 以上の深さの小さな揚げ床の園芸箱で 30cm の格子に区分して栽培す る(通常 1 箱に 16 区画できる)。
2 園芸箱に泥炭ゴケ1/3、ひる石1/3、混合堆肥1/3の園芸用土を入れる。
3 あなたが選んだ作物を、苗の大きさに応じて各区画に集約的に、規定された数だ け植える。(規定数はバーソロミューの本を参照。例えば 1 区画にブロッコリー 1 本、 人参16本。)
4 種の無駄を避けるために、各区画に必要な数だけ播く。
5 肥料は加えない。養分は栽培材料の中の堆肥だけに頼る。
6 あまり手をかけない園芸を実践する。掘らず、耕さず、土壌の準備、調査、世話を しない。
7 連続的に植え付けることで、たくさん収穫する。
8 支柱によって、つる性の作物を育てることにより、水平方向の空間を利用する。 9 園芸箱の間に広い通路(少なくとも90cm)を残して、作業や移動をしやすくする。 10 道具は最小限に。必要なのは移植こて、穴を突いたり苗木をポットから取り出す 鉛筆、収穫用のハサミだけ。 メル・バーソロミューの本「新しいフィート園芸のすべて( All New Square Foot Gardening )」の注文は 96 ページを参照。
バイオ集約農法の十カ条
1 60cmの深さまで2度耕作することにより土をほぐす。 2 作物を六角形の形状で詰める。
3 化学肥料をは与えない。
4 堆肥は自家製し、土壌を改良する。
5 相助作用のある植物を混植して(共生栽培ともいう)互いの成長を促す。
6 一人二役の炭素の豊富な作物を栽培する。例えば、穀物を畑の60%くらい栽培 する。(これらの作物は堆肥のための炭素質の大部分を供給すると同様に、栄養素 のカロリーの大部分を供給する。)
7 カロリーの豊富な根菜類、例えばジャガイモなどを畑の30%くらい栽培する。
8 遺伝的多様性を維持するために、放任授粉した種を播く。
9 土壌を維持するのに十分な有機物があなたの「小農場」内で作られるような相互 作用のある「閉じた」栽培システムを作る。
10 次のような方法で食糧を生産する。慣習的な農業と比べて、資源を大幅に節約 すること、多様性を重視すること、土作りを行って高い生産性を達成すること。
リンダ・A・ギルクソン(Linda A.Gilkeson) は、昆虫学の博士号を持ち、 20 年以上、ワークショップや書物を通じ て、園芸家を教育。彼女はブリティッ シュ・コロンビア州で園芸をし、園芸本 の著書多数。近著は「.Backyard Bounty: The Complete Guide to Year- Round Organic Gardening in the Pacific Northwest)」(注文は 96 ページを参照)。
たのしい暮らしをつくる
マザーアースニューズ
Intensive Gardening: Grow More Food in Less Space (With the Least Work!)
By Linda A. Gilkeson
February/March 2014
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